061.忘れさせて





例え、誰に何を奪われたとしても。
心だけは誰にも渡さない。
コレだけは、絶対誰にも渡さない。



暗い部屋の中、一番最初に見えたのは天井。
そして、君の顔。
「周・・・」
痛々しそうな面持ちで僕を見つめる瞳には、微かに光るモノがある。
その瞬間、自分の身に起こった出来事を鮮明に思い出す。
「あっ・・・やぁっ!!」
両手をじたばたと不規則に動かし、景吾から逃げるようにベッドの端に移動する。
「周っ・・・落ち着けっ!」
「やぁっ・・・見ないで、来ないでぇ―――っ!!」
発狂したように叫び狂う僕を見る景吾の眼は、後悔と哀愁の色が支配していた。

「やだっ・・・見ないで・・・」
嗚咽を漏らし、泣き叫ぶ僕を見る景吾の唇がわずかに動く。
「ごめんな、周」
悲しい色を称えた瞳が、そう呟く。

その言葉に、僕の動きがぴたっと止まる。
景吾はそんな僕から視線をはずし、うつむく。

「えっ・・・」
「ごめん、ごめんな、周―――・・・」
小さく肩を震わせ、声を出さずに泣いている景吾。
あんなに強い人が、こんなにも弱っている姿をはじめてみた。
「景吾・・・」
「ごめんな・・・」

ポタポタと布団を濡らす液体に、
細かく震える肩に、
景吾の悲痛な声に、
僕の眼から涙が落ちる。


「守ってやれなくて、ごめん」
わずかに顔を上げた景吾の唇に、そっと自分のそれを重ねた。
ちゅっと、一瞬だけ触れ合う。
そして、ぐいっと腕で涙を拭う。
「・・・僕ね、キスだけはされてないんだ」
"唇は守ったの"
ぽつりとそういうと、景吾は驚いた表情を浮かべた。
「他は・・・守れなかったけど」
そういって僅かに微笑むと、景吾はぐいっと僕の肩を引きその力強い腕の中に抱き込んだ。
「周、ごめん」
「なんで、景吾が謝るのサ・・・」
そういいながら、景吾の背中に腕を回す。
温かい景吾の胸に顔を埋め、すりつく。
「・・・ありがとう」
ぐっと力をこめて僕を抱きしめ、そう言う景吾に目頭が熱くなる。
ぽたっと、景吾の服を濡らす。
「愛してる、周」
「景吾・・・」
どちらともなく触れ合う唇。
何度も、何度も。
お互いの熱を交換する。


愛している。
君だけを愛している。
僕は君だけのものだ。
例え、誰に何を奪われたとしても。
心だけは誰にも渡さない。
コレだけは、絶対誰にも渡さない。





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