078.Birthday 2





「ん・・・?」
眼を開けると、窓の外では太陽がサンサンと輝いていた。


―――あのまま泣きつかれて寝ちゃったのか。


ガンガンと痛む頭をおさえながら、僕は飾りつけられた部屋をみた。
僕はなんだか居心地の悪さを感じ、今日の主役がいない飾りつけられた部屋を後にした。

―――せっかく景吾のために準備してきたのになぁ。無駄になっちゃった。


「景吾・・・怒ってるかなぁ・・・」
"怒ってるよねぇ・・・"

昨日、いきなり来て泣いて。
"バカ"って叫んで帰ってきちゃったんだもんなぁ・・・。
怒ってないほうがヘンだよね・・・。


ははっ・・・と失笑が漏れる。


―――今ごろ景吾は氷帝のみんなとパーティーかぁ。


 本当は僕が祝ってあげたかった。
 最高の誕生日をプレゼントしたかった。
 いつも頑張ってる景吾にご褒美をあげたかった。
 そして、何より・・・
 誰より、僕の傍にいてほしかった。
 誕生日という1年に1回しかないこの日を
 僕と過ごしてほしかったんだ・・・。


そう思うと、また泣きそうになった。
それを我慢するように、ぐっと手を握り締めた。


行く当てもなく家を出た僕がたどり着いたのは、やはり景吾の家だった。
しかし景吾に会う勇気がなく、帰ろうとしたその時。
上着の胸ポケットにいれていた携帯が、優しい旋律を奏でた。
優しい旋律の中に垣間見える烈情。
それは、昔僕と景吾が作った曲。
お互いの想いの丈を曲にした。
そして、お互いの携帯の着信音にも設定しているそれ。
なぜそれが"今"鳴るのか。
答えは1つ。
彼からの着信だから。



「・・・どうして・・・」



僕は少し出るのに躊躇した。
しかし、意を決して着信ボタンを押す。

「もしも・・・」
「どこほっつき歩いてやがんだ。このバカ」

出だしの言葉を言い終わる前に、そう言われた。

「・・・僕なんかに電話してていいの?」
"お楽しみの最中でしょ"

皮肉たっぷりにそう言うと、景吾は電話の向こうで大きな溜息をついた。

「なにさ、呆れてんの?」
「・・・周」
諭すような声で僕を呼ぶ。

「なんだ・・・」
「オレが悪かった。今日のこと、気付いてやれなくて」
"お前のことだから、しっかり準備してたんだろ"

優しく、僕を労わるような声。

「景吾・・・」
「今、お前の家の前にいる」
氷帝むこうは断ったから”

早く帰って来い。と言わなくてもわかる。
景吾の温かい言葉。

「景・・・ごめ・・・」

そんな景吾の声を聞いていたら、我慢していた涙がどっと溢れた。

「んだよ、また泣いてんのか?」
"しょうがねぇなぁ"

あきれた口調で、でもすごく優しい声音でそう言う。

「ごめっ・・・。景・・・ごめっ・・・」
「周・・・もういいから」

電話の向こうで景吾がふっと笑った。
そして、一言。


『               』


その言葉に、びっくりして僕の涙も止まった。
そして、次の瞬間には笑いがこみ上げてきた。

「もう・・・ばか・・・」
"すぐ帰るよ"

そう言うと、電話を切って僕は走り出した。



君が産まれた日。
君が生まれた日。
僕は感謝します。
君と出会えたこと。
君を好きになったこと。
君に好きになられたこと。
僕は神に感謝します。
最高にかっこいい恋人を、僕に与えてくださったことを。





―――オレ様の誕生日だ、祝いに来い。





Fin.