078.Birthday 1
君が産まれた日。
君が生まれた日。
僕は感謝します。
君に出逢えたこと。
君を好きになったこと。
君に好きになられたこと。
僕は神に感謝します。
久しぶりに景吾と並んで歩く帰り道。
いつもはお互いクラブが忙しく、一緒になんて到底帰れない。
けれど、今日はたまたまクラブの終わる時間が一緒になった。
そこで僕たちは待ち合わせをして、少しでも一緒にいられる時間を作った。
「・・・でね、そこで英二と桃が――・・・」
他愛もない会話を交わしながらも、僕のアタマの中にあったのはただ一つ。
3日後に控えている景吾の誕生日のことだけだった。
「相変わらずみたいだな、青学も」
"氷帝のヤツらもみんな元気だぜ。ほんと、うっとぉしい程に・・・な”
少し疲れた顔で景吾が言う。
氷帝男子テニス部200人を1人で纏め上げ、あげく1人1人の能力や弱点にあわせた
練習メニューを作っている景吾。
それだけでも大変なのに、その上生徒会長までやっていて。
この時期は文化祭が目前にせまっていて、そうとう忙しいみたいだ。
―――わかってても、手伝えないなんて・・・。
他校生のツラい所、とでも言うべきか。
景吾の力になってあげられない自分が、もどかしくも不甲斐無い気持ちになる。
「周・・・どうした?」
急に黙り込んでしまった僕を、心配そうに覗き見る景吾。
「あっ・・・なんでもない。大丈夫だよ」
景吾によけいな心配をかけまいと、とっさに作った笑顔で答える。
しかし、そんな僕を景吾は訝しげに見ていた。
「・・・はぁ」
大きな溜息をつくと、景吾は僕の頭にポンっと手を乗せて、一言。
「あんま無理すんなよ」
っと、言った。
今、何を聞かれても答えないだろう僕の性格を理解した上での行動とセリフ。そんな景吾の優しさと愛情の深さに、
僕は少し泣きそうになった。
―――景吾も大変なんだ。だから僕も頑張って、景吾に最高の誕生日をプレゼントするんだ。
それから2日間。
僕は死に物狂いに景吾の誕生日の為の準備を進めた。
景吾が好きなローストビーフ用のお肉は産地直送で最高級のものを用意した。
部屋の飾りつけもばっちり。
ケーキも下ごしらえまでカンペキ。あとは焼いてデコレーションすれば完成だ。
他にも、景吾が喜んでくれそうな品々を色々と用意した。
―――1番大切なプレゼントは、今夜確実に出来上がるし・・・。
準備はカンペキに整った。
あとは景吾を誘うだけ。
僕は意気揚々と携帯を手に家を出た。
向かう先はもちろん景吾の家。
「おじゃましまーす」
勝手知ったるなんとやら。
幼少の頃より通いつづけている景吾の家は、まるで自分の家のようにわかる。
広い広い家の中を迷うことなく景吾の部屋の前まで来た。
そして、ドアノブに手を掛けたとき、僕の耳に信じられない言葉が飛び込んできた。
「あぁ、わかってる。明日10時に部室・・・だろ」
"何度も言わなくたってちゃんと行くっつってんだろっ!"
―――えっ?
今・・・景吾何て言った・・・?
『アシタ10ジニブシツ』
『チャントイク』
明日・・・10時に?
部室・・・?
「―――あぁ、じゃぁな」
ピっと電話を切り、部屋のドアを開ける景吾。
「ぅおっ!? なんだ・・・周、来てたのか?」
"びっくりするだろ"
ドアを背中で押さえ、景吾が部屋の中へと招いてくれる。
僕は重い足取りで、それでもなんとか部屋の中まで歩いていく。
「それで? どうしたんだ・・・急に」
"ほら"
淡いブルーのガラスのコップにミネラルウォーターを注いで、僕に渡す。
僕はそれを一気に飲み干し、喉を潤わせた。
そして、何とか声を絞り出し、景吾に尋ねる。
「明日・・・どこか出かけるの・・・?」
景吾が肯定するのは分かっていても、否定してくれることを願った。
しかし、返ってきた言葉はやはり。
「あぁ」
肯定だった。
「明日・・・何の日かわかってるの・・・?」
「明日・・・?」
"なんかあったか・・・?"
などととぼけたことを言う景吾に、僕は愕然とした。
「・・・周?」
「・・・」
何も言えなかった。
ただ、とても悲しい気分になって。
除々に視界がボヤけていった。
「おい・・・周っ!? お前・・・なに泣い・・っ」
「景吾のばかぁっ!!」
そう叫ぶと、僕は勢いよく景吾の部屋を飛び出した。
「おい・・・周っ!?」
遠くで景吾が僕を呼ぶ声が聞こえたけれど、気にせず走った。
走って、走って。
息が切れるまで走って。
家に着いてもスピードを緩めず、そのまま部屋まで走り込む。
その力を留めたままぼふっとベッドに倒れ込む。
ぎっ、とベッドが軋んだ。
「ふ・・・う・・・」
ベッドに倒れ込み、今自分がしてきたことを思いだす。
いきなり部屋にいって、いきなり泣いて。
一人で怒って、飛び出して・・・。
―――景吾は何も悪くない。悪くないのに・・・。
後悔の涙が後から後から流れ落ち、枕を濡らす。
しかし、涙を止める術を僕は持っていなかった・・・。
next
|