067.楽園
決して踏み込んではいけない場所だったとしても。
決して口にしてはいけない果実だったとして。
きっと手を伸ばしたはず。
なぜなら、どんな犠牲を払っても失うことの出来ない人がいるから。
長いのか短いのかわからない人の生。
その一生でただ一度、出会うであろう吉星の人。
その人となら、たとえ堕ちてもかわまない―――・・・
「景吾・・・別れよう」
君に幸せになってほしくて。
自分の幸せよりも望んで。
「さよなら・・・」
僕は決死の覚悟で別れを告げた。
だけど・・・
「・・・ふざけんなよ、テメェ・・・」
だけど、彼は聞き入れてはくれなかった。
「別れねぇぞっ・・・絶対・・・っ!」
「景吾の為なんだよ・・・っ!?」
"僕が傍にいたら、君がダメになる・・・っ!"
そう叫んだ瞬間。
僕の眼から涙が落ちた。
「かまうもんかっ! お前さえいれば、オレは何もいらないっ!」
「ダメだよ、景吾っ!!」
"君は・・・君には幸せになってもらいたいんだ"
ポロポロ・・・っと、とめどなくあふれる涙。
頬をつたい、床に小さな水溜りを作っていく。
「離さねぇ・・・絶対離さねぇっ!!」
「景吾・・・」
ぐいっと僕の腕を引っ張り、力いっぱい抱きしめる。
その身体は、少し震えていた。
「オレの為を思うんなら傍にいてくれよ・・・」
"オレの傍に・・・"
「けい・・・っ!!」
僕を見る景吾の頬を、一筋の涙がつたう。
―――な・・・泣いてるっ!?あの景吾が・・・っ!?
僕は驚いて声が出なかった。
「頼むよ・・・周・・・。オレは・・・お前がいなきゃ・・・」
「け・・・ご・・・」
結局
結局、僕を幸せに出来るのは君しかいなくて。
また、君を幸せに出来るのは僕しかいなくて。
そこが、決して踏み込んではいけない場所だったとしても。
それが、決して口にしてはいけない果実だったとしても。
きっと手を伸ばしたはず。
なぜなら、どんな犠牲を払っても失うことの出来ない人がいるから。
長いのか短いのかわからない人の生。
その一生でただ一度、出逢うであろう吉星の人。
その人となら、たとえ堕ちてもかまわないと思えるから。
それは“恋”で作られた迷宮。
それは“愛”で作られた楽園。
Fin.
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