065.アイス





蝉の声が響き渡る暑い夏の公園。
噴水の前で一人、太陽の照りつけにも負けず座り込む美少年。
太陽の光を受け、銀色に光る髪。
白いシャツの裾から覗くきめ細かく白い肌。
少し着崩した制服を、それでも優雅に着こなし。
あまりの暑さに憂いを帯びた眼差し。
その眼の下の泣き黒子が、なんとも言えない妖艶さを醸し出している。
公園にいる人達の視線を一身に浴びながらも、気負うことなくその場で携帯とにらめっこを
始めて早1時間。


「遅ぇ・・・」
イラついた口調で携帯を睨む。
しかし、そこには愛しい人からの着信はない。


――なにやってんだよ


人をこんな炎天下に呼び出し、さらには1時間も待たせている相手に
しかし、文句をいいながらもこうして待っている自分に
少し笑いが漏れる。

「ずいぶん楽しそうだね」
すっと、目の前に影が出来たかと思うとそこには1時間も自分を待たせた愛しい人。
「遅ぇんだよ、何やってたんだ」
いつもどうりの口調でそういうと、その人―不二周助―は隣に腰を降ろす。
「ごめん、ちょっと姉さんに捕まっちゃって・・・」
"逃げられなかったんだ"
申し訳なさそうな表情でそう言う不二に、跡部はふっと鼻で笑うとすっとその細い肩に腕を回す。
「まぁ、いいさ」
"久しぶりのデートだしな"
口の端を持ち上げてかるく笑うと、視線を公園の端に止まっているワゴン車に流す。
「アレだろ? 昨日言ってたヤツ」
くいっと顎でワゴン車を指すと、不二は楽しそうに微笑う。
「そう、前に英二とみつけたんだ」
"アイスクリーム屋さん"
にっこりと微笑む不二に、跡部はすっと立ち上がる。
「景吾?」
「・・・何味がいいんだ?」
そう問うと、不二は一瞬びっくりした顔をしてまたにっこりと笑う。
「そうだな、バニラがおすすめだよ」
"シンプルでおいしかったよ"
そういうと、跡部はスタスタとワゴン車の方へ歩いていく。
そして、ワゴン車の前で何かをいいポケットから財布を出す。
お金を払ってアイスを受け取る。
「・・・あれ?」
「なんだ?」
そんな跡部の様子を見ていた不二がふと声を出す。
その不二の声が聞こえたのか、跡部がそれに答える。
「一つだけ?」
「あぁ」
短く返事をすると、すっと不二の前にアイスを差し出す。
不思議に思いながらもそれを受け取ると、ぱくっと一口食べる。
「うん、やっぱりおいし――・・・」
幸せそうな不二の顔に、跡部も自然と顔がほころぶ。
そんな跡部の前に、すっとアイスを差し出す不二。
「景吾も食べて」
そういう不二の手からアイスを取ると、不二の口にアイスを近づける。
「・・・いらないの?」
不満げに声を出す不二に、跡部は不敵に笑ってみせる。
「いや、こうやって食うんだよ」
ぐいっとアイスを不二の口につけると、その反対側から自分の食べる。

アイスの真ん中を掘って進み、不二の舌を見つけるとためらうことなく自分のそれを絡める。
「えっ・・・ちょっ・・・んん・・・」
とっさのことに反応できない不二の口内を縦横無尽に荒らす。
ぽたっとアイスが地面に落ちる音が聞こえたが、そんなものも気にせず口付けを続ける。
公園にいた人たちはビックリしてそんな2人を凝視していた。

「はっ・・・あ・・・もう、なにするのサっ!」
肩で息をしながらも抗議の声を上げる不二。
そんな不二に、跡部はくっくっと喉を鳴らして笑うと"見てみろよ"とワゴン車を顎で指す。
言われるままにワゴン車を見た不二の眼に移ったのは・・・

「・・・うそ・・・」

自分達と同じように1つのアイスで戯れている無数のカップルと、そうしようとワゴン車に続く列に並んでいるカップル。
そして、そんな大売上に楽しそうに笑っているアイスクリーム屋の店員だった。
その店員と目が合った瞬間、
"どうもありがとうございました"
そう言われた気がする。

「売上大幅にアップで喜んでるじゃねぇか」
"他の連中だって楽しんでるし"
ふふんっと勝ち誇ったように笑う跡部に、不二はまさに開いた口がふさがらない状態だった。

「いつまで呆けてんだよ」
ぺしっと頭を小突かれ、やっと我に返った不二にすっと手を差し出すと
跡部はそのまま不二の手を引いて歩き出す。
「いこうぜ」
「・・・そうだね」


蝉の声が響き渡る暑い夏の公園。
そこは1組のバカップルのおかげでいっそう熱い場所になってしまった。





Fin.