063.ずっと一緒に
いつも君の傍にいたいから。
いつも君の隣にいたいから。
いつも君の横にいたいから。
僕は―――・・・
黒い雨雲に空を覆われ、時間がわからなくなるぐらい暗い天上。
そんな天気の中、僕は駅前のいつもの店に景吾を呼び出していた。
2人がけの机に向かい合わせに座る。
景吾は足を組み、腕を組んでどかっと座る。
僕は机に上に肘をつき、その上に顎を乗せにっこりと笑っていた。
「・・・で、どうしたんだ?」
不機嫌そうな顔で景吾が聞く。
「ん・・・別に」
にっこりと笑って言う僕。
「・・・っ」
景吾の眉間に皺が寄る。
「・・・手塚みたいな顔になってるよ?」
僕が言うと、景吾はさらに機嫌を悪くしたらしい。
「怒らないでよ・・・」
僕が、溜息交じりにそういうと、景吾の眉がピクっと動いた。
「怒らないでよ・・・」
2度目のセリフ。
「・・・」
無言の景吾。
2人の間に静かな空気が流れる。
ふっと外を見るといつの間にか雨も降り出していた。
長い沈黙。
その沈黙を破ったのは景吾だった。
「いいかげんにしろよ」
がたっとイスから立ち上がる景吾。
その表情はあきらかに怒っていた。
「どうしたの?」
「なんなんだテメーは。いきなり人を呼び出したかと思えば"別に"だと・・・?」
"こんなことのために呼び出されたんなら、帰るぞオレは"
言って、スタスタと歩き出す。
「ちょ・・・ちょっと待ってよっ!」
慌てて止める僕。
「うるせー。オレは帰るっ!」
僕の静止もムシして帰ろうとする景吾。
僕と景吾のやり取りを、じっと見ているお客さんや店の人達。
もともと目立つタイプの景吾だから、僕達は完全に注目の的だった。
「景吾・・・っ!」
あわてておいかける僕。
しかし、景吾はお店の外に出ようと扉に手をかけた。
「外、雨降ってるよっ!!」
僕の最後の抵抗。
「・・・っ!?」
それがうまくいったのか、景吾はピタっと止まった。
そんな景吾の傍に掛けより、腕を絡ませる。
「相変わらず、雨嫌いなんだね・・・」
"さぁ、止むまでおとなしくしてようネ"
にっこりと笑うと、僕は景吾の腕を引いてイスに座らせる。
そして、僕も景吾の前に座り、また机に肘をつく。
「・・・で? そろそろ言えよ」
"オレを呼び出した理由を・・・"
少しうなだれながら聞いてくる。
「そうだね・・・」
"雨が降りそうだったから・・・カナ"
と笑う僕。
「ふ・・・ざけんなよ・・・テメー・・・」
"せっかくの休みを・・・"
グチグチと呟く景吾。
「ふふ・・・ごめんね・・・」
でも、本当なんだよ。
雨が降りそうだったからなんだ。
だって、雨が降ったら・・・。
雨が降ったら景吾、止むまで動かないから・・・。
そうしたら、ずっと一緒にいられると思ったんだ。
普段はお互いに忙しくて、なかなか逢えないから。
少しでも、一緒にいたかったんだ・・・。
「ごめんね・・・景吾・・・」
そう言って少しうつむく。
すると、景吾がコツンと僕の頭を小突いた。
「ばぁか」
顔を上げると、そこにはいつもの優しい景吾がいた。
「回りくどいことしてんじゃねーよ」
"逢いたいならそう言え"
ふっ・・・と優しく笑う景吾。
「でも・・・」
"重いって思われるかもしれないし・・・"
心の中でそう続ける。
「遠慮なんてしなくていいんだよ」
"オレはお前のモンなんだから"
そういうと景吾は僕の横に座った。
「オレの居場所はココなんだ」
"お前は違うのか?"
ポンっと頭の上に手を乗せる。
手から伝わってくる景吾の暖かさ。
眼から伝わってくる景吾の優しさ。
言葉から伝わってくる景吾の想い。
身体全体からでも、ひしひしと伝わってくる景吾の心に、自然と僕の眼から涙がこぼれた。
「泣いてんじゃねーよ」
"バーカ"
という景吾の顔はとても優しかった。
「け・・・ごぉ・・・っ!」
うっ・・・と嗚咽を漏らす僕。
そんな僕を景吾は何も言わずに抱きしめてくれた。
力いっぱい抱きしめてくれた。
いつも君の傍にいたいから。
いつも君の隣にいたいから。
いつも君の横にいたいから。
僕のわがままを聞いていてね、いつまでも―――・・・
Fin.
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