038.ソファー





僕の部屋には、3人掛けの大きなソファーが置いてある。
それは、もちろん彼の趣味なのだけど。
僕がいなくても、勝手に座ってたりするのもいつものこと。
家族も公認の彼だからこそ出来る芸当。
なんだけど―――・・・

「・・・」
テスト前でクラブもないので、久しぶりに明るいうちに家に帰り、いつものように自室の
ドアをあけた。
すると、見なれた制服が見えた。
白を貴重とした気品溢れるチェック地のズボン。
それは、3人がけの少し大きめのソファーからはみ出していた。
僕は、息を殺しそっと近づいてみた。

「・・・あ。」

銀色に光る髪を風と遊ばせ、手にはゲーテの詩集(言語版)を持っている。
凛と前を見ている瞳は静かに閉じられている。
規律正しい呼吸と、あどけない表情に自然と頬が緩む。
「・・・よく寝てる・・・」
クスクスと静かに笑うと、そっとその身体にタオルケットをかける。
そっとその前髪を梳ってやると、くすぐったいのか身体を揺らす。
「・・・ん・・・」
そっと手を止め、景吾の動きを見る。
すると、すぐにまた規律正しい寝息を立てだした。



「う・・・ん・・・?」
「・・・オハヨ」
寝ぼけ眼でこちらをみる景吾ににっこりと笑ってそういうと、景吾は眼をこしこしとこすりながら
ぼーっと僕の顔をみる。
「クスクス・・・よく寝てたね」
「帰ってたのか」
はっきり覚醒したのか、いつもの口調になっている。

僕は自分の机に向かってテスト勉強をしていたのだが、景吾はそれを見やるとゆっくりとした
動作で立ち上がる。
そして、僕の横までくるとそっと僕の肩に手をおく。
「何やってんだ?」
すっと僕の手元を覗き込む景吾。
「テスト勉強だよ、明日からテストだからね」
"どうしてもコレだけが解けないんだ"
そういって、ノートに書かれた数学の問題を指差す。
すると、景吾はちらっとソレを見やると趣にペンを取りノートに書き込みを入れていく。
「こうすれば楽に解けるんだよ」
サラサラと解き方を細かく書いてくれる。
「あっ、なるほど」
景吾の模範的な回答に、僕はやっと答えを出すことが出来た。
「さすが、景吾」
「ふん・・・ようは閃きの問題だ。出だしさえわかればあとは勝手に答えが導かれる」
言いながら、答えを書き終えた景吾は静かにペンを置いた。
「わかった。ありがとう、景吾」
「別に」
そう言うと、景吾はまたソファーに戻っていく。
ゲーテの詩集を片手に、埋まるように深く座りこむ。
僕もまた、机に向かいテスト勉強を開始する。


お互い自由にしながらも、同じ時間を共有する。
僕達の日常はそんなもの。





Fin.