028.Rabbit
真っ白い、もこもとした毛並み。
泣き濡れたような赤い瞳はまるでルビー。
丸い尻尾に特徴的な長い耳。
生きたぬいぐるみのようなそれをいとおしそうに抱きしめる周に、自然と頬の筋肉が緩むのを
感じる。
とてもよく晴れた夏の日曜日。
オレと周は近くに出来た"動物触れ合い広場"に来ていた。
そこにはうさぎをはじめ子猫やら子犬やら、たくさんの動物が大きな広場に放し飼いされていた。
「見てみて、景吾っ!」
満面の笑みを浮かべ、うさぎを抱いたままくるっと上半身を回す周。
そんな周の腕の中にいるうさぎはピスピスと鼻を鳴らしながら顔をこすりつけていた。
「か〜わいいっ!」
きゅーっとうさぎに抱きしめる周の額を軽く小突く。
「あんま締めるとうさぎが苦しがるぞ」
「あっ、ごめんねぇ・・・」
そう言って、すっと腕の力を抜く。
すると、うさぎが首を持ち上げその愛らしい瞳で周を覗き込む。
「どうしたの??」
そんなうさぎの行動に、小首を傾げる周。
次の瞬間。
―――なっ!??
うさぎがぐいっと身体を起こし、周の唇に軽く触れる。
「えっ・・・?」
びっくりした表情でオレとうさぎを交合に見やる。
すると、隣からクスクスと笑い声が聞こえた。
すっと視線をやると、飼育係のオンナがこちらを見て笑っていた。
「彼女、そのコによっぽど気にいられたみたい」
未だクスクスと笑う女に、周はなんともいえない表情をしていた。
コレはうさぎにキスされたからか。
それとも女と間違われたからか。
そんなことを考えていたら、飼育係の女がにっこりと笑った。
「うさぎって、結構人の気持ちに敏感なんですよ」
そういいながらひょいっと足元のうさぎを抱き上げる。
「そうなんですか・・・?」
「えぇ、だから怖々触るとうさぎもまた怖がって警戒する。
優しく触るとそれを返してくれる」
周の質問に答えながら、白い毛並みを掻くように優しく撫でる。
「だから、優しく接してあげると返してくれるんですよ」
"そのコみたいに"
優しい眼差しで周の腕の中にいるうさぎをみやる。
「そっか・・・」
"ありがとう"
そう言って優しくうさぎの背中を撫でると、うさぎは気持ちよさ気に目を細める。
そんなうさぎを愛おしそうにみつめる周。
「じゃぁね」
ひとしきりうさぎと戯れた後、"帰るね"とうさぎに挨拶する周。
その眼は少し名残惜しげだった。
そこにさっきの飼育係の女がやってくる。
「うちは気に入ったコをお持ちになれますよ?」
"よかったらどうですか"
そう進める女に、すっと周の肩を抱く。
「ウチには手のかかるナキウサギが一匹いるから」
オレがそういうと、周が"えっ?"と声を上げる。
「うち、うさぎなんていないよ?」
「いるじゃねぇか」
小首を傾げる周の肩をぐいっとひっぱりその身体を腕の中に閉じ込める。
「すっげぇ手のかかるナキウサギが」
「・・・っ!!」
ぼっと顔を真っ赤にする周に、くっくっと喉を鳴らして笑う。
オレの言葉の意味を理解した飼育係の女も、一瞬びっくりした顔をしたがすぐにクスクスと口元を押さえて笑う。
「では、仕方ありませんね」
"またのご来場、お待ちしております"
ぺこっと頭を下げると、女はクスクスと笑みをこぼしながら他の客の所へと歩いていった。
「もう・・・」
未だ顔を赤らめたままの周を腕の中から解き放つ。
「ホントのことだろ」
腰に手を回し、その身体を自分に近づける。
「こんな手のかかるうさぎ、見たことねぇよ」
「でも、手がかかるからこそ可愛いんだろう?」
誘うように、すっと眼を細める周。
―――まったく、このウサギは。
ふっと笑いながら周の顎に手をかけ、上を向かせる。
そして、形のいい周の唇に自分のそれを重ねる。
一瞬、触れるだけのキス。
それでも、回りの視線を一身に浴びる。
「帰るぞ」
「うん」
そういって歩き出す周の肩に腕を回す。
すると、周も答えるようにオレの腰に腕を回してくる。
「また来ようね」
「そうだな」
あんな可愛い周が見れるのなら何回だって来てやるさ―――・・・
Fin.
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