023.旅支度





お前の笑顔が見れるなら
お前の笑顔を見れるなら
オレはなんでもしてやるさ―――・・・

「ねぇ、景吾っ!」
夏休みも半分過ぎた8月中旬。
部活も夏休みに入ったオレと周は、いつものようにオレの部屋でまったりと
休みを満喫していた。

昼食を食べ終え、オレはロッキングチェアーに座り、忍足に借りたテニス雑誌を見ていた。
すると、ベッドの上に寝転んで雑誌を読んでいた周がいきなり大声を上げた。
「ココ、行きたいっ!」
がばっ・・・と飛び起きると、持っていた雑誌をオレの方へ向け
「ココっ!」
と、指さした。
周が指したトコロには
"秘湯!猿のくる温泉!!"
という見出しのついた温泉街の特集だった。
「ねぇ、行こうっ!」
眼をキラキラさせながら、そう言う周。
「・・・マジか・・・?」
少し引きつりながら、オレが聞く。
「・・・ダメぇ?」
少し上目遣いに問う。
「う゛っ・・・」
ダメっ・・・!?
ダメってか・・・苦手なんだよ・・・
誰が入ったかわかんねーんだぜ!?
大衆浴場おんせんって・・・。
なんか・・・汚くねぇ・・・?

「日々の疲れとれるよ・・・?」
"景吾、いつも忙しいんだしサ・・・"
少しうつむき加減に言う。
「・・・周・・・」

疲れがとれる・・・ってか・・・
周のことが気になって余計に疲れねぇか・・・?
それよか、オレ以外の男におまえの裸体を見せるのか・・・?

「・・・ダメならいいよ・・・」
"苦手だもんね、大衆浴場・・・"
悲しげに眼を伏せながらぼそっと呟く。
「・・・周・・・」


でも、周は行きたいんだよな・・・。
あんまりわがまま言わない周の、"わがまま"なんだよな・・・。
・・・・・・。

「ごめんね、景吾・・・」
ぽすっ・・・とベッドに寝転がる周。
枕に顔を埋め、うつ伏せに寝ている。
「・・・・・・。」
オレは、ロッキングチェアーから立つと、ベッドに腰掛ける。
ギシっ・・・とスプリングが軋み、周の身体がピクっと動く。
オレは、そんな周の頭に手を伸ばし優しく撫でる。
栗色の細く柔らかい周の髪の感触を楽しみながら、オレは腹をくくった。
「・・・行こうぜ、一緒に・・・」
"猿のくる温泉"
すると、ばっと顔を上げて、周はオレに抱きついた。
「わっ・・ちょ・・・周っ!!」
周の勢いに押され、オレ達はどすんっとベッドから転げ落ちた。

「イテテ・・・」
もろに腰を打ちつけたオレは、痛みに耐えながら周を見た。
「クスクス・・・」
周は、オレに抱きついたまま笑っていた。
「・・・周・・・」
オレは少しあきれながら、周を抱きかかえるとそっとベッドにおろした。
「景吾・・・今の・・・ホント・・・?」
白いシーツの海に埋もれながら尋ねてくる。
「あぁ・・・」

苦手なことでも周のためならたとえ火の中、水の中・・・
温泉だって行ってやる。

「景吾、大好きっ!!」

お前の笑顔が見れるなら
お前の笑顔を見れるなら
オレはなんでもしてやるサ、お前の為に―――・・・





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