021.薬
たまにすごく悲しくなるから。
たまにすごく寂しくなるから。
たまにすごく恋しくなるから。
だからお願い―――・・・
今日も相変わらず僕は景吾の家に入り浸っていた。
だけど、景吾はさっきから机に向かって学校の課題をやっている。
僕はベッドに座り、そんな景吾の背中を見ながら、それでも景吾の気を引こうと
頑張っていた。
「・・・欲しい」
「・・・」
僕がそう呟いても無視。
「・・・ほしい」
「・・・」
も一回言ってみても無視。
「・・・ホシイ」
「・・・」
やっぱり無視。
「聞こえないの?」
「・・・」
無視。
さすがの僕も少しムカついた。
「バカ景吾」
すると、景吾は机にむかったまま
「あーん?」
と、少し不機嫌な声を上げた。
「聞こえてるじゃないかっ!!」
“なんで無視するのサっ!”
僕が抗議の声を上げる。
すると、景吾は僕の方をチラっとみて一言。
「ウルサイ。」
っと言った。
「・・・バカ」
「・・・」
「・・・アホ」
「・・・」
「・・・ケチ」
「・・・」
「・・・エッチ」
「・・・っ」
少し反応があった。
「・・・スケベ」
「・・・っ!」
「・・・ヘンタイ」
「・・・っ!?」
もう一押し
「・・・絶倫」
「・・・おい・・・」
ついに景吾が口を開いた。
「・・・なに?」
「“なに?”じゃねーだろ・・・」
“なんなんだよ”
うなだれながら言う景吾。
「だって・・・」
少しうつむいて答える僕。
「もう少しで終わるから・・・」
「・・・うん・・・」
しゅんっとなる僕。
景吾のジャマをしたいワケじゃないのに。
景吾のジャマになりたくないのに。
うつむいて黙りこんだ僕をみて、景吾は“はぁ”っと大きなため息をついた。
「周」
「・・・」
あきれてるのかな・・・。
さんざん課題のジャマしたもんな・・・。
「周」
「・・・」
それとも怒ってるのかな・・・。
あっ、ムカついてるのかも・・・。
しつこくしすぎたかなぁ・・・。
そんなコトを考えてたらいきなり押し倒された。
「・・・っ!?」
僕は、一瞬何が起こったのかわからず目をパチクリさせていた。
「さんざん人のジャマしといて無視かよ・・・っ」
「えっ・・・景・・・?」
僕の上に馬乗りになった景吾が僕を覗き込んで言った。
「景・・・んっ!?」
そして、僕の顎を掴むと荒々しく口付けてきた。
「んっ・・・ちょ・・・っ!待っ・・・」
唇を割り、歯を割り開き、舌を差し入れ好き勝手に口内を犯しまくる。
「ふぅ・・・んんっ」
頭の芯がくらくらするような熱いキス。
僕のカラダから徐々に力が抜けていく。
それがわかったのが、熱く激しかったキスも甘くとろけるようなキスに変わった。
舌を絡めあい、貪るように僕らはお互いを求め合った。
厭らしい水音が部屋に響く。
「はぁ・・・っ」
景吾は少し名残惜し気に唇を離すと、僕を覗き込んだ。
「治まったか?」
「う・・・うん」
「そうか・・・」
そう言うと、まだ肩で息をしている僕を尻目に景吾は課題の続きをやる為、
机の前に戻っていった。
「・・・ありがとう」
机に向かっている景吾の背中に言う。
「どーいたしまして」
“オレもキモチ良かったし”
少し笑いを含みながら肩越しに答える景吾。
「しかし・・・また急にきたな」
“例の発作・・・”
一人呟くようにそういうと、立ち上がりまたベッドに戻ってくる。
「・・・うん・・・」
僕もカラダを起こし、景吾の横に座りなおす。
「そんなに寂しかったのか?」
ぽんぽん・・・っと、僕の頭を叩く。
「だって・・・」
僕は少し恥ずかしくなってうつむいた。
景吾はそんな僕の横でふっ・・・と笑うと、いきなり僕を抱きしめた。
そして、僕の耳元で甘く囁いた。
「愛してる」
とたん、僕の顔がかぁぁ・・・っと、赤らんだ。
「好きだぜ、周。愛してる」
ぽろぽろ・・・っと、僕の目から涙がこぼれる。
「バーカ」
“泣いてんじゃねぇよ”
からかうようにそう言った景吾の眼は、凄く優しい色をしていた。
「景吾・・・愛してる・・・」
たまにすごく悲しくなるから。
たまにすごく寂しくなるから。
たまにすごく恋しくなるから。
だからお願い。
そんな時は“愛”と言いう名の薬を下さい―――・・・
Fin.
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