016.逆効果





「テメーらっ! チンタラしてねーでさっさとしやがれっ!!」
その日、朝から跡部の機嫌はすこぶる悪かった。

「ジローっ! 寝てんじゃねぇっ!! 宍戸、鳳っ!! くっちゃべってねーでマジメに走れっ!!!」
「なんや跡部、エライ機嫌悪いやん。」
見かねたオレが声をかける。
「ウルセーよ、忍足。テメーもさっさと行け」
じろっ・・・と、オレを睨む跡部。

―――そないな怖い顔しとったら、せっかくの美人が台無しやで?

そんな事を考えながら、それでも口にしたらめっさ怒るんやろうからとりあえずいらんことは
言わんと普通に返す。
「そやかて、気になるやん」
"そないに睨まんといてーな"
オレは苦笑いを浮かべながら跡部の肩をぽんっと叩く。
周りの正レギュラーはもちろん、準レギュも他の部員もオレと跡部のやりとりをはらはらした表情かおで見とる。
「・・・なんでもねぇよ・・・」
"っつーか、テメェにゃ関係ねぇだろ"
ふいっ。とオレから顔をそらす跡部。


跡部はほんまにすっごい『オレ様』で、この世はオレのもん!みたいなヤツやけど、実は結構中学生こどもっぽい一面を持っとったりして・・・。

「関係ないやなんてヒドイなぁ・・・」
"オレマブダチやろ?景ちゃん"

そんな跡部がかわいーて、ついついイジめたくなるんや。

「誰がマブダチだっ! 誰がっ!!」
"景ちゃん言うなッ!!"

しかも、予想通りの反応ことをしてくれるもんやからほんま楽しーて。

「そんなん決まっとるやん」
"オレと景ちゃん"
とことんイジめてまう。
やけど、跡部かて楽しんどるみたいやし?
まぁ、エェかななんて思ったりして。

「・・・ったく。お前なぁ・・・」
少し苦笑いを浮かべながら、跡部がオレの肩に手をおいた。
「・・・忍足、サンキュ・・・」
オレにだけ聞こえるぐらいの声で言う。
いや、オレにしか聞こえんかったやろう。
「えーよ」
ほんま、かわいーやっちゃ。


「そやけど、ほんまなんであないに機嫌悪かったん?」
ふっ・・・と思い出したように聞く。
「そ・・・れは・・・」
少し言いにくそうに顔をそらす跡部。
そんな跡部に、オレはある疑問を投げかけた。

「不二に・・・フラれたん?」
「んなっ!? フラれてねーよっ!!」
あえて間をあけて言うオレに、跡部は力いっぱい否定する。
「あっ・・・そうなん?」
"ほなら、なんで?"
じっ・・・と、跡部の顔を覗き込む。
「う゛っ・・・」
また顔をそらす跡部。
「ん、どないしたん?」
にっ・・・っと笑いながらさらに詰め寄る。
「・・・っ」
まだ言えへん。

頑固なやっちゃなぁ・・・。

「わかった。跡部が教えてくれるまで、ココを動かん」
「なっ・・・!?」
ココはコートの真ん中。
オレがココを動かん限りクラブは出来へんやろーなぁ。
これぞまさに最終手段や。
「どうする?」
「・・・っ」
明らかに動揺しとる跡部。

オレと跡部の微妙な駆け引き。

跡部は、諦めたようにふぅ・・・と息を吐くと、オレの胸倉をつかんで思いっきり引っ張りよった。
「ぅわっ・・・ちょぉ・・・っ!?」
バランスを崩し、前のめりになっとるオレの耳元で小さく叫ぶ。
「逃げられたんだよ・・・夕べっ!」
「・・・・・・はっ?」
オレはなんやよーわからんで固まっとった。
「だから・・・っ!」
跡部は顔を真っ赤にしながら言う。
"夕べ、周に逃げられたんだよっ!!"
「・・・ぷっ! あはは・・・っ!!」
オレはこらえきれずに吹き出した。
「・・・だから言いたくなかったんだよ・・・っ!」
"くそっ・・・"っとすねる跡部。
「悪いわるい・・・。そやけど景ちゃん。自分、かわいーやっちゃなぁ」
「ウルセーっ!」
"オレはあのクスリ、気にいってんだよっ!"
ぷいっ・・・とそっぽ向く跡部。


クスリ―――・・・ねぇ?
まったく・・・人騒がせなカップルやわ、ほんま。
跡部もクスリもらえんかったからってスネんでもエエのに。
不二かてケチらんとあげたらエエのになぁ。
とか思うんはオレだけやろか?



「そやけど景ちゃん。クスリの飲みすぎは逆効果やで?」





Fin.