004.襲撃
その日、いつもは静かな通学路がにぎわっていた。
「・・・おい」
それと共に聞こえる不機嫌な声。
氷帝学園テニス部部長・跡部景吾の声だった。
「ん、なに?」
そして、それに答える声は楽しそうだった。
栗色のサラサラな髪を風と遊ばせ、
朝の陽が白い肌をさらに美しく見せている。
整った面立ちに、人当たりのよさそうな微笑み。
氷帝学園の制服に身を包み、
生徒の視線を一身に受けながらも、
決して臆したりしない度胸。
『孤高の帝王』として名高い跡部が、唯一頭の上がらない相手。
それが青学NO.2の天才・不二周助だ。
「どこまでついてくる気だよ・・・」
"オレの制服まで着て・・・"
怒りを押さえ、あくまで平然を装う跡部。
「もちろん、教室まで」
しかし、楽しそうに笑う不二の様子に、堪忍袋の緒もブチ切れた。
「今すぐ家帰れっ!!」
今来た道を指差し怒鳴る。
普通の人間なら、ここで引くのだろうがこの不二周助は違った。
怯えも恐怖も悪びれた様子もなく、跡部の方へ近づいてくる。
「いやだね。ついていくよ、僕は」
少し上目遣いに跡部を見る。
そして首に腕を廻し、顔を近づける。
ギャラリーがにわかに湧く。
キャーっと叫ぶ生徒から、カメラで2人の様子を撮っている生徒まで。
また、不二のあまりの妖艶さに鼻血を拭く生徒やら、失神を起こす生徒まで出ていた。
しかし、当の2人はそんなことはお構いなしに痴話喧嘩を繰り広げていた。
「お・・・おい、周っ!?」
自分の首に腕を廻し、艶かしい色気で挑発してくる不二に跡部はわたわたっとしていた。
「クスクス・・・」
っと静かに笑う不二。
腕の力を強め、さらに跡部に近づくとそのまま首元へ顔を埋めた。
そして、甘い声で囁いた。
"ついていくよ。どこまでも・・・ね"っと。
ばっと耳を押さえながら顔を赤くする跡部。
「それに、君が言ったんじゃないか」
"いつも傍にいろって"
と、跡部にだけ聞こえるぐらいの小さな声で呟いた。
「・・・・・っ!!」
それを言われては、跡部に反論の余地はなかった。
なぜなら、確かに自分がそう言ったからだ。
しかも・・・昨日の夜に。
しかし、実はそれも不二の計画的犯行なのだが、跡部がそれに気付くことはないだろう。
不二の計画はそれくらい計算しつくされているのだ。
「だから、ついていくよ」
クスクス・・・っと笑う。
その横では、跡部が青くなっていた。
結局、その日不二は放課後まで氷帝学園に居座った。
そして、次の日。
"青学テニス部NO.2の天才・不二周助、堂々と氷帝襲撃!!"
という見出しの『氷帝新聞号外』が両校に配られたとか・・・。
Fin.
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