003.寝顔





「ん・・・」
夜、1人目を覚ますと必ず僕は景吾の腕の中にいる。
僕を捕らえて離さない、その力強い腕。
景吾の身体は、とても中学生とは思えないほどバランスよく引き締まっている。
この、鍛え上げられた身体を見る度に、やはり景吾は"スゴい"んだと実感する。
200人もの部員の頂点トップに君臨し、類稀なカリスマ性でその全てを1人で支えている。
それは並大抵の苦労じゃないと思う。
部長として部員全員に気を配り、なおかつ統括していかなければならない責任がある。
手塚も大変そうだったけど、それでも手塚には大石という強力な副部長サポーターがいた。
そして、乾や僕もそれなりに手伝って青学テニス部は成り立っていたんだ。
だけど、景吾は誰にも頼らず自分ひとりでその全てを抱え込んでいる。



自らが努力する姿を決して人には見せないため、心の内を曝け出すことなど
決してないだろうと言われる彼。
そんな景吾は時に"冷酷""横暴"などの批判を浴びせられようとも、屈することなく
自分のスタイルを守り続け、その強大な力を見せつけて、相手を自ら跪かせ、
畏怖の念までもを抱かせる。
だけど、僕は知っている。
冷たくなるのは、その人の為。
甘やかしていては本当に強くはなれないことを知っているから。
這いつくばってでも頑張らないといけないと知っているから。
そして、何よりも部員を大切に思うから。
だけど、人はそれを理解わかってはくれない。
"敗者はいらない"の陰に"だから自分を高め這い上がって来い"が隠れていることに
気付いてくれない。


そんな彼と外界を隔てているのはプライドではなく誇り。
自尊心ではなく自制心。
彼の部員に対する熱い思いが、彼を『孤高の帝王』にしてしまったのだ。
「よく、眠ってる」
僕は景吾の為に何も出来ないけど、せめてゆっくり眠れる場所を作ってあげたい。
疲れた景吾が安心して休める場所になりたい。
人を寄せ付けない彼が、ここまで心を許して傍にいさせてくれるのだから。
愛してくれるのだから。
僕には、それくらいしか出来ないから。


サラサラ・・・っと額にかかっている景吾の前髪を梳っていると、急に腕を掴まれた。
「寝てたんじゃないの?」
「どっかのバカの視線が気になって寝てられねーんだよ」
むくっと起き上がる景吾。
「じろじろ見てんじゃねーよ」
寝るぞ。っと僕の頭をシーツに押し付け、自分のまた横になる。
「ん・・・」
「どうした?」
心配そうに見てくる。
クスクス・・・
「なんでもないよ。ただ、景吾って寝てても綺麗だなって」
「ばーか。そりゃお前だろ?」
コツンっと僕の頭を小突く。
「そんなこと言ってねぇで早く寝ろ」
明日も朝練あんだろ?っと続ける。
「そうだね、このまま景吾の寝顔を見てたいけど、寝坊して手塚に走らされるのは
 遠慮したいな・・・」
じゃぁ、早く寝ろ。っと優しく僕を包む。


優しい温もり。
力強い心音。
規則正しく聞こえる呼吸。
大好きなヒトの匂い。
その全てが僕の眠気を誘う。
「おやすみ・・・」
「あぁ」
そうして僕は夢の中へと誘われていく。


「やっぱり、お前の寝顔の方が綺麗だぜ」
額に軽くキスをして、跡部も深い眠りについた。


数々の星が瞬く天上そらもと、全ての人が寝静まりそこは無音のせかい
そのベッドの上には大好きな人の隣で眠る幸せそうな寝顔が2つ。
お互いを抱きしめ合って眠っていた。
その顔はまるで天使のごとく美しかった―――・・・





Fin.