002.初めて





オレが初めて周と出逢ってから、もう10年になる。
あの頃と何も変わらない空を見上げながら、オレは周と初めて出逢った頃の事を
思い出していた。





「なっ・・・!?」
いつもは静かな公園が急にざわめいた。
大人から子供まで、それはもう信じられないものをみたような顔をしていた。
いや、確かに信じられないものをみたのだが・・・
「コンニチハ」
栗色のサラサラな髪。
透き通るように白い肌。
クルンっとカールした長いまつげ。
赤くふっくらした唇。
天使のごとき微笑み。
一瞬、誰もが思った。
"天使だ・・・"と。

「お前・・・誰だ?」
その頃、すでに近所のガキの頂点トップに君臨していたオレ。
そのオレが代表で声をかける。
「僕は周。今さっきこの街に引っ越してきたんだ」
"よろしくね"っとふんわりと笑った。
鈴を転がしたように可愛いく、それでいてよく通る凛とした声。
「オレは景吾。跡部景吾だ。」
"よろしく"と言って手を前に出す。
それをみてにっこりと笑う"周"。
「よろしくね、景吾」
オレの出した手をやんわりと握る。



それが、オレと周の初めての出逢いだった。
あの時すでにオレの心は周にもってかれていた。
いわゆる一目ぼれってヤツだ。
近所の公園に舞い降りた天使にオレはもうやられていたんだ。



その日から、オレ達は毎日一緒にいるようになった。
しかし、オレの気持ちは言っていない。
知られたら、きっと今の関係は壊れると思ったから。
そして、気付いたらオレは周と唯一無二の"親友"になっていた。
その日までは―――・・・

「おい、周」
「なに? 景吾」
オレ達は、その日もいつもとかわらず一緒に遊んでいた。
っと、そこにオレの恋敵ライバルが現れた。
そいつは前のガキ大将で、オレとのケンカに負けてからひっそりと暮らしてたヤツだった。
「おい、そこのお前」
と、ぶしつけに周を指す。
「僕? なに・・・?」
周はいきなり指名されて、少し戸惑っていた。
でも、ヤツはそんなことはお構いなし続けてこう言った。
「お前、俺のモノになれよ」
ヤツはオレが言いたくても言えなかったセリフをさらっと言ってのけた。


―――今思い出してもムカツクぜ・・・


「なっ・・・!? フザケンナっ!!」
当然真っ先に声を上げたのは他でもないオレだった。
しかし、
「お前には関係ない」
っと、スパっと切られた。
「く・・・っ!!」
そう言われたら、オレは口を挟めなくなる。
一方、周は突然の事に固まっていた。
驚きが顔全体に広がっていた。
「お前、かわいいし俺のアイジンにしてやるっ!」
ヤツがそう言った瞬間。
パンっと、乾いた音が響いた。
そして、周が冷ややかな眼でヤツを見やると、低い声で言った。
「僕が愛人だって? 冗談じゃない、この僕を愛人にするなんて100年早いよ」
周は静かにキレていた。
ただ、それが静かな分余計な怖さを与えていた。
「用はそれだけ? なら、僕達は失礼するよ」
といって、オレの腕に手を絡め引っ張るようにその場を立ち去る周。
「ふんっ! テメーみたいな暴力女コッチから願い下げだぜっ!」
遠くでヤツがそう叫んでいた。

周は、ヤツが見えなくなってもなおツカツカと歩き続けた。
「しゅ・・・周?」
オレが遠慮がちに声をかける。
「・・・ねぇ、景吾。」
「なんだ?」
お互い、少し気まずいながらも言葉を交わす。
「さっきのヤツ・・・失礼だと思わない?」
"この僕が愛人だなんて"と呟く。
そして、"僕、男なのに・・・"と付け足して。

その時、オレは思った。
自分の気持ちを伝えるのは今だ。っと。

「ほ・・・本妻ならいいのか・・・?」
ふとした疑問を投げかける。
「えっ・・・?」
周はびっくりした顔をオレに向けた。
オレはゴクっと生唾を飲み、覚悟を決めた。
「オレは・・・オレは初めて逢ったときからお前が・・・周が好きだった・・・っ!」
"誰にもお前を渡したくない・・・"
かぁぁっと顔が熱くなるのが自分でもわかった。
周は少し下を向いて、オレの言葉に耳を傾けていた。
そして、そんな周をみながらオレは、何よりも誰よりも周に言いたかった言葉を一つ、
周に渡した。
「周、オレの嫁になってくれ・・・っ!!」
周は、ぱっと顔を上げる。
「景吾・・・」
「ダメ・・・か?」
少し自信なさ気にそう聞くと、周はふるふるっと首を振った。
「うれしいよ。僕も景吾のこと好きだったから・・・」
"こんな僕でいいのなら・・・"
と言ってにこっと笑った周の顔も少し赤らんでいた。

この日から、オレを周は“最高の親友”から“最愛の恋人”になった。
反対されるのを承知で、オレ達はすぐ両親にも伝えた。
ところが両家ともあっさりとオレ達の婚約に同意。
2人はめでたく親公認の仲になった。


―――今考えてもスゴいことしたよなぁ・・・。


あの頃のことを思い出して少し笑う。
告白じゃなく、プロポーズだもんなぁ・・・。
「青かったよなぁ・・・」
「なにが?」
いきなり後ろから声をかけられた。
それは、最愛の恋人・不二周助だった。
オレは振り返って周をみた。
周は微笑みを浮かべて立っていた。
そう、あの頃から何も変わらない微笑みを浮かべて。
でもま、アレがなかったら今のオレ達もなかったかもしんねーんだよな。


―――やっぱ、言ってよかったぜ。


「周、愛してるぜ」
「うん? 僕も愛してるよ?」
"どしたの?"と聞く周の腰に腕を回しながら
「なんでもねぇよ」
と笑った。



オレ達は、あの頃から何も変わっていない。
そう、この空のように。
何も―――・・・





Fin.