「景吾、別れてくれ」

そう言うと忍足は俯き、そのまま踵を返す。

「えっ…?」

突然告げられた離別わかれに、跡部は上手く思考が働かないでいた。
そんな跡部を尻目に、忍足が一歩、また一歩と歩き出す。

確実に開いていく2人のキョリに、跡部は呆然と立ち尽くす。
遠ざかる背中に、ココロが凍えていくのを感じる。

いつも隣に居て、これからもずっと傍に居てくれるのだと、
そう思っていた温度が今はもうない。

あぁ、捨てられたんだ。と理解した途端、眼から大粒の涙が溢れ出した。




『夢現』



「…吾、景吾ッ!」

名前を呼ぶと共に身体を大きく揺さぶられ、跡部ははっと目を開ける。

広がる視界に入ってきたのはいつもの見慣れた天井と、



心配そうな忍足の顔。



「ゆう…し…?」
「景吾、よかった」

ほっと息を漏らしながら、忍足は安心したようにベッドに腰掛けた。

「びっくりしたわ、景ちゃん寝ながらいきなり泣き出すんやもん」

言いながら、忍足は優しく跡部の目から溢れた涙を掬う。

「……ユメ、見た」

身体を起こしながら、未だ覚醒しきっていない様子のまま跡部がポツリと呟く。

「夢? どんな?」
「オマエが…オレを捨てるユメ…」


両腕で自分を抱きしめるように丸まりながら跡部がそう言うと、忍足が大きく
腕を開いた。
そして、そのままぎゅっと跡部を抱きしめる。

「そんな夢見たん。それで泣いたん?」
「…悲しかった。オマエに背中向けられて、どんどん遠ざかっていくオマエを、
ただ見てるしか出来なくて…」

思い出して、また目頭が熱くなるのを感じた跡部は、そのまま忍足の首に腕を回す。
肩口に顔を埋める跡部の形の良い後頭部を撫でながら、忍足は甘く囁く。

「オレが景吾を捨てるとか、天地がひっくり返ってもありえへんから」

よいしょ、と跡部を抱きなおすと忍足はそのままベッドに寝転ぶ。
跡部の頭を自分の二の腕に乗せる形で寝かせ、そっと布団をかけてやる。

「オレが好きなんは、愛してるんは景吾だけや」

ポンポンと布団を軽く叩きながら、跡部の赤く色づく唇にそっと自分のそれを
重ねる。

「オレがずっと傍におるから、安心して寝とき」

ポン、ポンと一定のリズムで刻まれるそれに、自然と跡部の瞼が下がる。

「侑士…」
「ん?」

とろん、とした目で忍足を見やりながら跡部は一言。

「オレも、あいしてる…」

言って、跡部は夢路へと旅立った。





「アカン、今のは反則や」

跡部からの思いがけない言葉に、忍足は顔が赤くなるのを感じた。

「景ちゃんが寝ててくれて、助かったわ」
"こんな顔、見せられへん"

一人ごちながら、忍足はそっと腕の中の跡部を見やる。

今度はすやすやと安らかな寝息を立てている跡部に、自然と頬が緩む。



一生、傍にいると誓った。
一生、守り通すと決めた。
一生、愛し抜くと定めた。


一生、一緒にいようと約束した。


「景吾…」


誰にも渡さない。
絶対に離さない。
何処にも逃がさない。


お前はオレのモノ。
オレはお前のモノ。
2人は2人のモノ。


だから、ずっと言わせて欲しい。


「愛してる」


その一言を。






Fin.