生まれてきてくれたことを
出逢ってくれたことを
今、傍に居させてくれることを
心から感謝します。
『トクベツ』
闇が支配する漆黒の中、愛しい人を腕に抱きながら、緩い眠りに微睡む。
まだ寝るわけにはいかない、固く自分自身にそう言い聞かせながら、忍足は
もう何度目かもわからない欠伸を噛み締めた。
そっと腕の中を覗きこめば、あちらこちらに情事の名残を残した愛しい恋人が、
普段からは想像も出来ないような幼い寝顔を披露している。
顔にかかる絹のような銀糸をそっと撫で付ければ、曲線を帯びた愛らしい額が
顔を覗かせた。
その額にそっと唇を寄せると、擽ったそうに身をよじる。
腕の中でモゾモゾと動きながらも安心しきった顔でスヤスヤと眠る恋人に、
自然と頬が緩む。
一人、そんな幸せを噛み締めていると、サイドボードに置いた腕時計がピピっと
小さな電子音を奏でた。
日付が変わった合図。
「誕生日おめでとう、景ちゃん」
小さくそう呟きながら、きゅっとその身体を抱きしめる。
起こさないように、細心の注意を払いながら。
トクン、トクンとリズム良く動く心音に耳を傾けながら、忍足は言葉を紡ぐ。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
額に。
「出逢ってくれて、ありがとう」
右頬に。
「傍におらせてくれて、ありがとう」
左頬に。
「好きになってくれて、ありがとう」
手の甲に。
「愛してる」
ふっくらと赤く色付く唇に。
「景吾」
優しく、触れる程度のキスを落とす。
1番初めに言いたくて。
誰よりも先に言いたくて。
ずっと、迫り来る睡魔と戦いながら待っていた。
この時を。
この幸せを。
伝えたかったんだ。
自分を優しく抱きしめたまま、恋人が夢の旅路へと出かけた事を確認し、
跡部はそっと目を開けた。
少し顔を上げれば、忍足の綺麗な寝顔が間近にあった。
きつくなく、緩くなく、絶妙な力加減で自分を包み込んでいる腕の中から
こっそりと抜け出し、跡部は起き上がる。
忍足の枕元にちょこんと座ると、その白く長い指で忍足の頬を撫でる。
「恥ずかしいこと、してんじゃねぇよ」
ばーか、と小さく毒づくと跡部はそっと身を屈める。
閉じられた唇に、最大級のありがとうと愛してるを込めて、キスを送る。
生まれたことを
出逢えたことを
今、傍に居れることを
ありがとう
君のハッピーバースデー
一年に一度の魔法
トクベツな日。
Fin.
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