花をひとつ手に入れた。
大きな花を手に入れた。
とても綺麗な花を手に入れた。
人々が欲して止まないその花を、オレは手に入れた。



『花』



それは、世界に1つしかない珍しい花。
高貴で気高く、自分が気に入った人間にしか触れることを許さない。
時に傲慢で、唯我独尊。
それでいて人々を魅了する気品に溢れたその花は、孤高の存在として皆に崇められている。

「景ちゃん」

オレは、その花に近づくことを許された。
その花の心に入ることを許された。

「あーん?」

呼ばれた花は機嫌悪そうに眉間に皺を寄せながらも、その力強い視線をオレに向けた。



澱みのない自信に満ちた、その眼。
テニスをしているにしては白く、肌理細やかな肌によく似合うブルーアイズ。



その眼が、まっすぐにオレを見る。

その眼に写ることが、どれだけ幸せなことか。
その眼に写るまでが、どれだけ大変なことか。

「なんだよ、忍足」

そんな考えに耽っていたら、跡部が怪訝そうな顔でオレをみていた。

「・・・忍足?」
「あっ・・・あぁ、スマン。なんでもないねん」

覗き込むようにオレの顔を伺う跡部は、もう先程の不機嫌なオーラを纏ってはいなかった。

「・・・侑士」

小さく息を吐き出すと、跡部は"言え"と言わんばかりに双方のブルーアイズでオレを見てくる。

その眼に、オレは一瞬たじろいだ。

「えぇっと・・・」

ぽりぽりと頭を掻きながらオレは困った顔を跡部にむける。
しかし、そんなオレをまっすぐに見やる跡部の視線に耐えられずに、オレは視線を外してしまった。
すると、カタンっと言う音と共にオレの頬に触れる優しく暖かい、手。
それが跡部の手だとオレが認識するよりも早く、跡部は無理矢理ぐいっとオレの首を動かし視線を自分へと向けさせた。

「どこ見てンだよ」

眉間にしわを寄せ、3センチ下から睨むようにオレを見やる跡部。
しかし、その瞳は怒っている、というよりも寧ろ哀しげな色を湛えながら揺らいでいた。

「オレには言えないコト、なのかよ・・・」

哀しげに揺らぐその眼は、それでも尚まっすぐにオレを見てくる。

「ちゃうねん、誤解せんといて!せやのうて・・・」

そんな跡部にオレは慌てて否定の言葉を返す。

「せやのうて、ちょっと幸せ噛み締めててん」
「えっ?」

驚きに目を見開く跡部の柔らかな頬に手を伸ばし、そっと触れる。
跡部は擽ったそうに一瞬身を引いたが、それ以外はなにも抵抗すらしない。
そんな跡部に、オレは自然と笑みが漏れる。

「触れることを許してくれる」

言いながら、オレは頬を撫でていた手を跡部の背中へと回す。
そして、ふわりと抱き寄せた。

「腕の中におってくれる」

跡部が苦しくない程度の力でぎゅっ、と抱き締める。
すると、鼻先を擽る跡部の髪からはシャンプーの甘い香りが漂ってきた。
その事に、また幸せを感じる。

「景吾がオレの腕の中におってくれる。こうやって抱き締めさせてくれる」

そっと跡部の首筋に顔を埋めた。

「それだけで、オレはめっちゃ幸せやねん」

耳元で呟くようにそう言うと跡部はぼっと顔を赤らめ、そしてその顔を隠すように視線を下へと向ける。

「・・・オレも」

だらん、と垂らしていただけだった腕をそっとオレの背中に回し、跡部も抱き返してくる。

「オレも、侑士がいてくれて幸せ・・・」

そして、赤く火照ったままの顔を恥ずかしそうにオレへと向けながら、小さくもはっきりと言った。

そんな跡部の可愛らしさに、オレは゛まいった゛としか言い様がなかった。

「景吾、愛しとる」

自然と口をついて出たその言葉が跡部の耳に届くのと同じくらいの早さで、跡部の赤く色付く唇に自分のそれを重ねた。



花をひとつ手に入れた。
大きな花を手に入れた。
とても綺麗な花を手に入れた。
人々が欲して止まないその花は今、オレの腕の中にいる。





Fin.