「恭弥〜! dolcetto o scherzetto!」

勢いよくドアを開けると、文字通り飛び込んできた金髪の外人を一瞥し、
雲雀は深い溜息を吐いた。



『悪戯』



冬も目前の10月末日。
世間はハロウィンに浮かれている。
雲雀が治める並盛でも、かぼちゃで作られたジャックオーランタンがいたる所に
置かれ、街全体がお祭りムードを漂わせていた。
そんな世間に感化され、並盛中でもハロウィンを楽しもうとお菓子を持ち込む生徒が
多数現れていた。
運悪くお菓子を所持している所を見られた生徒たちは、当然の如く雲雀の手によって
制裁が加えられていた。
そして、一仕事終えた雲雀は応接室に戻り、それらの報告書作成に精を出していた。





そして、冒頭へと至る。





サラサラとペンを走らせながら、雲雀は小さく嘆息を漏らす。

「・・・ドアは静かに開けろって何回言えば、アナタ覚えるの?」

呆れたようにそう言う雲雀に"悪い悪い"と謝りながら、ドカリとソファーに
腰を落とした。

それをちらりと見やりながら、それでも何も言わない雲雀にディーノは自然と
頬が緩むのを感じた。





群れる事を嫌い、助け合う事を是としない雲雀は、常に一人でいた。
誰も寄せ付けない、孤高の浮雲の如く。



しかし、雲雀はディーノを受け入れた。



誰も寄せ付けず、誰の前にも開かれなかったとびらを開いた。
そして、こうして傍にいるコトを許容している。
そう思うと、ディーノは込み上げる喜びについつい頬を緩ませてしまうのだ。





ソファーで寛ぎながら一人微笑むディーノに、雲雀は怪訝そうな視線を送る。

「何一人でニヤニヤしてるの、ヘンなヒト」

ぶっきらぼうにそういう雲雀にディーノはクスリと小さく笑うと、ソファーから
腰を上げ雲雀の隣に立つ。

「好きだぜ恭弥、愛してる」

そして、雲雀の形の良い頭を撫でながら、甘く囁いた。

「邪魔しないで」

自分の頭を撫でつける手を払いのけ、雲雀は尚もペンを走らせる。

「相変わらず、連れないな。恭弥は」

言いながらも大人しくソファーに戻りながら楽しそうにクスクスと笑うディーノに、
雲雀ははぁとわざとらしくため息をつくとそっとペンを置いた。

「終わったのか?」
「一応、ね」

書き終えた報告書を、処理済みの束の上に乗せる。
そして、ペンを片そうと机の引き出しに手をかける。

「そういえば。入って来た時、何て言ったの?」
「あっ、そうだった!」

引き出しにペンを仕舞いながら、雲雀がディーノに問う。


「dolcetto o scherzetto!」


言いながら両手を広げ、受け入れ体制に入るディーノに雲雀が眉を潜める。

「さぁ!どうする、恭弥?」

楽しそうに雲雀を待つディーノに、これみよがしにはぁと大きなため息を
吐きながらポケットから飴玉を一つ取り出した。



包装紙を外し、ポイっと口の中に放り込みながらディーノの傍へとやってきた
雲雀は、口の端を僅かに上げながら片膝をディーノの足の間からソファーにのせる。
そのままディーノの両肩に手をかけると、そっと耳元で囁いた。

「Anche se io vado in danno anche se io misi su una torta」お菓子をあげても悪戯するくせに
「……ッ!」

びっくりして固まるディーノに噛み付くようなキスを送る。

舌先で突き、唇を開かせる。
歯列をなぞり、咥内に割り込ませた。
応えるように伸びて来たディーノの舌に、さっき口に含んだ飴玉を乗せるとちゅっと
軽く唇を吸い、そのまま離れる。

「お前、いつの間に…」

口の中に残された、少し温かくなった飴玉を転がしながらディーノがそう言う。

「僕が何もしないでただアナタを待ってるだけだと思わないでよね」

フンっと鼻を鳴らしながら雲雀が発した言葉に、ディーノが目を丸くする。

「恭弥…オレのこと待っててくれてたの?」

信じられないものを見たような目で雲雀を見やりながら、ディーノがゆっくりと言う。

「……っ!」

ディーノの言葉に、自分の失言に気付いた雲雀がかぁっと頬を赤らめた。

「ちょっ…都合良く解釈しないでッ」

真っ赤な顔でそう叫ぶ雲雀を抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

「離して…ッ」

力では到底ディーノには敵わないと頭では理解わかっていても、羞恥が勝る雲雀は腕の中で
ジタバタともがく。
そんな雲雀の抵抗をものともせず、ディーノはさらに力をこめて雲雀を拘束した。



「Mi piace」好きだよ

首筋に顔を埋め、耳元で甘く囁いてみせると、雲雀がびくっと肩を震わせた。

「Io ti ho solamente」オレにはお前だけ

囁く度に、徐々に雲雀の身体から力が抜けていく。

「Vuole essere io vicino tu」ずっと傍にいたい

首筋から顔を上げ、まっすぐに雲雀を見る。

「Sii dal lato tutta la durata」ずっと傍にいて

羞恥に揺れる瞳に、ふっと目を細めながら距離を縮める。

「Ti amo」愛してる

赤く色づく唇に、自分のそれを重ねた。







恋人と初めて過ごすハロウィンは、甘い甘いキャンディーと


それ以上に甘い極上の悪戯ゆうわくが待っていた――……








「でも、面倒だからやっぱり日本語で話してね」


Fin.



※ dolcetto o scherzetto = お菓子をくれなきゃイタズラするぞ