「ひ…雲雀さん!明日、一緒に大通り行きませんか!?」
「イヤ」
振り絞ったなけなしの勇気は、たった2文字で瞬殺された。
『君の為の何もかも』
凍てつくような北風が吹き抜ける12月。
世間は明日に控えたイベントに浮かれていた。
街のいたる所で見かける赤と緑のコントラスト。
街中に流れるポピュラーソングに、自然と心も弾む。
そして何より、大通りに設置された色とりどりの電飾やモールに飾られた
巨大なツリーは、行き交う人々の注目の的だった。
普段から、雲雀があまりイベントには興味を示さないコトは分かっていたが、
『クリスマスぐらいは…』と勇気を振り絞り誘ってみたのだがあっさり玉砕してしまい、
綱吉はがっくりと肩を落とした。
「どうしても…ダメですか?」
「僕に、草食動物の群れの中に入れって言うの?」
その言葉に、綱吉はスゴスゴと引き下がる。
ソファーであからさまにショボくれる綱吉を横目に、雲雀は机の上に山積みにされた書類を
黙々と片していた。
重く、長い沈黙。
時計の針と、走るペンの音だけが響く部屋の中、綱吉が鞄を手にすっと立ち上がる。
「わかりました。お仕事の邪魔して、すいませんでした」
"オレ、帰りますね"
そう言うと、綱吉はそのまま振り返る事なく応接室の扉へと手をかける。
パタン、と閉められた扉の向こうから、パタパタとかけていく足音が廊下に響いていた。
綱吉のその一連の動作を一言も発さずに見届けていた雲雀が、趣に携帯を取り出す。
「草壁、至急用意して欲しいものがあるんだ」
草壁に簡単な指示を出し、雲雀は電話を切った。
そして、窓から運動場を見やると、トボトボと歩く綱吉の姿が確認出来た。
「綱吉…」
寂しそうに丸まった背中に小さくそう呼び掛けると、雲雀はくるりと踵を返し、
学ランの裾をはためかせながら応接室を後にした。
翌日、暇を持て余していた綱吉は部屋で一人淋しいクリスマスを迎えていた。
「はぁ…何やってんだろ、オレ」
そう一人ごちながら、ベッドの上から窓の外を見やる。
空は厚い雲に覆われ、今にも白い結晶が舞い降りてきそうな状態だった。
「もしかしたら、ホワイトクリスマスになるのかな…」
誰もいない部屋で、一人そう呟く。
そして、そっと目を閉じると瞼に浮かぶ愛しい人へ想いを馳せた。
「雲雀さん…」
―――年に1度のクリスマス、出来ることなら今日は一緒に居たかった。
そう思うと、自然と目から涙が零れていた。
「雲雀さん…」
―――会いたい。
好きで、大好きで仕方のない人。
初めはすごく怖かったのに、いつの間にか自分の中で1番大切な存在になっていた。
「雲雀さん…ッ」
考えれば考える程、辛く悲しい気持ちになる。
それに比例して涙が後から後から流れてきた。
綱吉はくるりと身体を反転させ、鳴咽を漏らさぬよう枕に顔を押し付けた。
「何やってるの、君」
カタリ、と窓が開く音と共に頭の上から声が降ってくる。
それは、会いたくて逢いたくて焦がれていた人の声。
びっくりしてばっと勢いよく顔を上げた綱吉の目に飛び込んで来たのは、愛しい人の
呆れた顔だった。
「ひ…雲雀さん?! ど…」
「迎えに来た。行くよ」
どうしたんですか、と聞こうとする綱吉の言葉を遮ってそう言うと、雲雀は綱吉の手を
取りベッドから起き上がらせた。
「あの…?」
「いいから、ついておいで」
そう言うと、雲雀は窓からひらりと飛び降り、未だ部屋でボケっとしている綱吉に視線を送る。
その視線に気付いた綱吉は手近にあったジャンパーを引っつかむと、急いで階段を駆け降り
家を飛び出した。
雲雀に手を取られ、半ば転ぶように引きずられながらやってきたのは人気のない並盛中だった。
門を開け、校庭を縦断し昇降口へ。
何食わぬ顔でポケットから鍵を取り出すと、趣に扉を開ける。
「あの…雲雀さん?」
「こっち。ついておいで」
言われ、綱吉は疑問を胸にしまいながらも大人しく雲雀の後に続く。
カツン、カツン。
人気のない廊下に響く、2人の足音。
反響するそれに不安感を覚えた綱吉は、ブルリと肩を震わせると少し足早に雲雀の傍へと寄り、
小さく揺れていた手を取った。
突然もたらされた温もりに驚いた表情を見せた雲雀だったが、ビクビクと怯えた様子で自分を
見上げる綱吉に優しい笑みを浮かべると、手の中にある小さなそれをきゅっと握り返した。
手を繋いだまま、無言で廊下を進む。
そして眼前に現れたのはもう何度も出入りし、見慣れてしまった扉。
ー応接室ー
「入りなよ」
ガチャリと扉を開けると、雲雀が中へ促す。
「あっ、ハイ。失礼します…」
「電気は付けないでね」
ペコリと軽く頭を下げると、綱吉は恐るおそる真っ暗な応接室へと足を踏み入れる。
「何突っ立ってるの、座りなよ」
言われ、手探りでソファーを見つけると、そっと腰を降ろした。
「あの…雲雀さん?」
「…群れの中に入るのはゴメンだけど」
漆黒を切り取ったかのような暗闇の中、雲雀の声が響く。
「神にも興味はないけど」
パチっと言う音と共に、部屋の中で小さなモミの木に飾られた無数の電飾が、淡い光りを放つ。
「君と過ごすのは、悪くない」
光りの傍で、穏やかな表情をした雲雀が立っていた。
「え……?」
思いがけない雲雀の行動に、綱吉は言葉を詰まらせる。
そんな綱吉に淡く微笑むと、雲雀は一歩、また一歩と綱吉の方へと歩を進める。
そして、綱吉の前まで来るとそっと肩膝を折り、跪く。
目線を同じ高さにし、雲雀はポケットから小さな箱を取り出すと、綱吉にそっと差し出した。
「Merry Christmas、綱吉」
「ひ…ばり…さん」
手の中に渡されたそれは飾り気のないシンプルな箱に、細く赤いリボンが巻かれていた。
シュルリとリボンを解き箱をあけると、中にはもう一つ箱があった。
紙とは違い、手触りの良い布地の箱。
ドラマなんかで見たことのあるそれに、綱吉は自分の鼓動が早く大きくなるのを感じた。
震える指先で箱を開けると、中には銀色のシンプルな指輪が納められていた。
「これ…ッ」
「貸して」
言うと同時に雲雀の長い指が銀色に光るそれを摘み上げる。
そして、もう片方の手で綱吉の左手を取ると、そっと薬指に指輪を嵌めた。
自分の左手薬指で光るそれを見ていると、徐々に視界が滲みながらゆらゆらと揺れだした。
大粒の涙を浮かべる綱吉に雲雀はゆるりと手を延ばすと、そっと頬に触れる。
「愛してるよ、綱吉」
「雲雀さん…ッ」
ぽろぽろと涙を零しながら上体を前に倒すと、優しく涙を拭う雲雀の首に縋るように腕を絡ませ、
綱吉は力いっぱい抱きついた。
「オレも、愛してます…恭弥さん」
「…っ」
耳元で小さくそう囁く綱吉に応えるように、雲雀もまた力強く綱吉を抱きしめ返した。
窓の外では愛し合う恋人達を祝うように、白い結晶がヒラヒラと舞い踊っていた。
Fin.
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